iDeCoの出口戦略を考える〜その2|非課税枠を活用できないと場合によっては損する可能性も?


ポイント

・iDeCoの受給方式は、退職金額に応じて一時金、年金、併用方式を選ぶことが重要
・iDeCoの加入時は、出口戦略(受給時)を想定して、掛け金、受取期間、受取方式等を設定しないと、余分な税金を支払う可能性がある。
・最悪の場合、トータルでマイナスの運用となるケースも。
・退職金が退職所得控除を超える場合は併用方式、超えない場合は一時金方式が有利か。

こんばんは、Yukinosuke(@yukinosuke35) です。
今回は前回(iDeCoの出口戦略を考える〜その①|退職所得控除と受取方法がポイント?)の続きです。

前回は会社等から支給される退職金を受け取る場合の基本的な税制の確認をしました。
続編の今回は、退職金に加えて、iDeCoを受け取る場合にどのような点に注意する必要があるか確認したいと思います。

◆iDeCoの受取方法

iDeCoの受取方法(給付方法)を厚生労働省のページにて確認すると、次のとおりとなります。
(出所):厚生労働省「iDeCoの概要

いろいろな給付の種類がありますが、多くの方は老齢給付金として、次の3パターンから選ぶことになると思いますので、今回はこの3パターンで考えたたいと思います。

・パターン1:「年金方式」
・パターン2:「一時金方式」
・パターン3:両者の「併用方式」

まず、パターン1の「年金方式」です。
私が利用している楽天証券を例にみると、60歳以降、5年以上20年以下の1年刻みで受取期間を選択することができ、年1回から年12回で受取回数を選ぶことできます。

(出所):楽天証券「個人型確定拠出年金(iDeCo)の給付

次の、パターン2「一時金方式」は、通常の退職金と同じように一括してiDeCoの全額を受け取る方法です。
パターン3の「併用方式」は、文字のとおりiDeCoの一部をパターン2の一時金として受け取り、残りをパターン1の年金方式として受け取る方法です。
受取方法が3つもあり少々複雑ですが、退職金の金額に応じて、iDeCoの受取方法を選択しないと、本来払う必要のない税金を余分に支払うことになるので要注意です。

◆退職金(退職所得控除額)の金額に応じてiDeCoの受取方法を考える

※退職所得控除については、前回記事を参考にしてください。

・退職金 + iDeCo < 退職所得控除額 の場合

iDeCoも通常の退職金と同様に「退職金」とみなされますので、 退職金とiDeCoの合計が退職所得控除額よりも少ない場合は、iDeCoの受取方法はパターン②「一時金方式」を選択すると、退職金 とiDeCoの両方が非課税(所得税)となります。

例えば、退職金が1,000万円、勤続年数30年、iDeCoの受取総額が480万円の場合
※iDeCoの480万円は、月2万円、年24万円の20年間積み立て
※退職金は60歳の定年退職時に取得

退職金(1,000万円) + iDeCo(480万円) < 退職所得控除額(1,500万円)
となっているので、退職金、iDeCo(一時金方式)の両方に所得税はかかりません。
※上記の場合は住民税も、非課税となります。

・退職金 + iDeCo  > 退職所得控除額 の場合

具体的な数字でみた方が分かりやすいと思うので、いくつか例をあげてみたいと思います。

例1:退職金が1,300万円、勤続年数30年、iDeCoの受取総額が480万円の場合

この場合は、
退職金(1,300万円) + iDeCo(480万円)  > 退職所得控除額(1,500万円)
となり、退職金とiDeCoを合計すると退職所得控除枠を超えてしまいます。
一方で、退職金だけで考えると控除枠は超えないので、iDeCoの受取方法はパターン3の「併用方式」を使い、iDeCoの一部(控除枠に収まる分)を一時金として受け取り、残りを年金方式で受け取ります。

○iDeCo(480万円)を「一時金」(200万円)と「年金」(280万円)で受け取り
 ・一時金:退職金(1,300万円) + iDeCo(200万円)
 ・年金: iDeCo(280万円)

なお、楽天証券の場合、年金方式を選択すると受取期間は5年以上20年以下の1年刻みで期間を選択することになるので、60歳からの5年間で上記の280万円を受け取る場合は、1年あたり56万円の受け取り金額となります。
※受取手数料等は無視しています。

ここでのポイントは、iDeCoの年金方式の受取期間を60歳からの5年間とし、公的年金控除額の枠内で受取を行うことで、非課税とできる点です。(公的年金等は65歳以降に受給)

公的年金控除

受け取る年金は雑所得として総合課税されますが、その性質上、控除が設けられており、それを公的年金控除といいます。
65歳未満で年金収入が130万未満であれば年間70万円までは非課税となっています。



次に、

例2:退職金が2,000万円、勤続年数30年、iDeCoの受取総額が480万円の場合

※iDeCoの480万円は、月2万円、年24万円の20年間積み立て
※退職金は60歳の定年退職時に取得

退職金(2,000万円) + iDeCo(480万円)  > 退職所得控除額(1,500万円)

となり、退職金だけでも退職所得控除額を超えてしまう場合です。
この場合は、どのようにしても課税されてしまうので、支払う税金の金額が少なくなるやり方を個別に計算する必要があります。

パターンA)「退職金とiDeCoの両方を一時金として受け取る場合」

この場合の計算式は以下のようになります。
(2,500万円+480万円-1,500万円)×1/2 = 740万円(課税退職所得金額)
740万円×23% - 63.6万円 = 106.6万円(所得税額)

※住民税と復興特別が別途課税されますが、ここでは簡略化のため省略しています。
※計算方法は前回記事を参考

パターンB)「退職金を60歳の定年退職時に一時金で、iDeCoを65歳で一時金として受け取る場合」

この場合の計算式は以下のようになります。

・退職金の受取時の税額
(2,500万円-1,500万円)×1/2 = 500万円(課税退職所得金額)
500万円×20% - 42.75万円 = 57.25万円(所得税額)

・iDeCoの受取時の税額(加入期間と勤続年数との重複期間は20年(※注1))
(480万円 - 0万円(※注1))×1/2 =240万円(課税退職所得金額)
240万円×10% - 9.75万円 = 14.25万円(所得税額)
合計税金額は、57.25万円+14.25万円 = 71.5万円 となります。 

(※注1)iDeCoを一時金として受け取る際の注意点(重複期間)
退職所得控除を計算する際の勤続(加入)年数には、それぞれが重複する期間は除くように決められております。そうでないと、会社の退職金とiDeCoの受取を1年ずらすだけで、それぞれの退職所得控除を最大限につかえてしまうためです。
そのため、上記の場合だと最初に受け取る退職金で退職所得控除額を全額使ってしまっているので、5年後に一時金として受け取るiDeCoの退職所得控除額を計算する際には、加入期間からその重複年数分を引いて、計算する必要があります。
上記の場合では、iDeCoの加入期間20年のうち、20年すべてが通常の勤続年数と重複しているので、退職所得控除額の加入年数比例部分は0円となります。
(参考)りそな年金研究所「確定拠出年金の税制に関する留意点について


1)本来の控除額(iDeCo加入期間:20年)
40万円×20年 = 800万円

2)重複期間の控除調整額(重複期間:20年)
40万円×20年(重複年数) = 800万

→重複期間の控除調整後の退職所得控除額の加入年数比例部分 = 1)-2)=0万円
となります。

パターンC)「退職金を60歳の定年退職時に一時金で、iDeCoは60歳から5年間の年金方式で控除枠分を受け取り、残りは65歳時に一時金で受け取る場合」

・60歳の退職金の税金額は、上記と同じ57.25万円
・60歳~64歳までの間は、公的年金控除の範囲内(70万円)なので非課税
・65歳でiDeCoの残額(130万円)を一時金でもらう場合の税金は、

(130万円-0万円)×1/2=65万円(課税退職所得金額)
65万円×5% - 0万円 = 3.25万円(所得税額)
で、計60.5万円(=57.25万円+3.25万円)が税金となります。

この場合の結論としては、パターンAからパターンCの3つの場合の税金は、
A)106.6万円
B)71.5万円
C)60.5万円
のようになり、パターンCが最高額のパターンAよりも約46万円も節税できることがわかります。

◆定年退職まで勤めた場合の退職金の平均金額とiDeCoの受取パターンは?

りそな年金研究所によると定年まで勤めた場合の退職金は大企業で平均約2,500万円、中小・中堅企業で平均約1,100万円となっています。


定年退職の場合の退職金の平均値から考えると、iDeCoの掛け金によもよりますが、大企業の方はパターン③の併用方式、中小・中堅企業の方はパターン①の一時金方式が、iDeCoの受取パターンでは節税につながるケースが多そうです。
※実際には国民健康保険料や介護保険料にも注意する必要があります。

◆まとめ

iDeCoは少子高齢化・人口減少による年金財政のひっ迫・受給年齢の引き上げをうけ、国の肝いりで始まった、いわゆる「国策」です。

そのため、今後、拡大されることはあっても、縮小される可能性はとても低いと個人的には考えております。実際、国や金融機関が一丸となって、盛んに加入PRしていることからもわかると思います。

しかしながら、出口(受給時)での税制が非常に分かりにくいため、加入に際しては出口戦略を考えて、掛け金・受取期間等の設定をしないと、受給開始時に運用益が税金に取られるばかりか、これまでの積立金からも税金にとられてしまい、結果的には損をしてしまう可能性があります。

積み立て時は全額所得控除でき、運用益は非課税など申し分ない制度的だと思いますが、
受給時の税制についても全額所得控除できないと、インパクトに欠け不完全な制度であると言わざるを得ません。

今回は受取時の税金シュミレーションをしましたが、多くの場合、受給開始は実際にはまだだいぶと先(10年~30年)であるため、その間に大きな制度変更などもありそうな気がします。

国(厚生労働省等)には是非、受給時にも全額非課税となるよう、制度変更してもらいたいものです。
※長文となりましたが最後まで読んで下さった方には感謝申し上げます。

(注)私は税の専門家ではありませんから、実際に税申告される際は、最寄りの税理士や税務署等にご確認のうえ手続きを行ってくださるようお願いいたします。

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